『お前の言うことは間違っていない』『正しい戦争なんてない…』『でも…正しさが人を救うとは限らない』

悩みの中には、傍から見れば本人が問題行動を起こしていて、どうしようもないように見えることもある。例えば暴力を振るうなどの加害行為や依存症が典型である。
攻撃的になり暴力暴言で人を責める、お酒におぼれる、ギャンブルで身を亡ぼす。薬物で体がボロボロになる。どれもパッと聞いただけでも、その行動を起こしている本人が問題であると一見思われる。
しかし、そんな人に対して周りが起こす行動は「やめさせること」しかし結果は伴わないことがほとんどである。
やめようと思ってやめれるなら、ほとんどが問題にはなっていないだろう。

ならば、そのような問題とされている人に対して、どんなことを考えるといいのだろうか。ここでアニメの話から説明する。

今回の話はアニメ、機動戦士ガンダムUCより。
この物語の主人公バナージは変哲のない日常を過ごしていたが、空から落ちてくる女の子(ミネバ)を助けることから激変する。女の子を探していた軍隊(ジオン)が突然自分の住んでいた町に襲ってきて、町は破壊されて、人が多く殺されてしまう。逃げまとう中、軍隊(ジオン)に対抗するために得た力、ユニコーンガンダムに乗り戦うこととなった。そして彼は戦争に巻き込まれる形となる。

自分を守るために無我夢中で戦っていたが、ある時に戦闘で意図せずに敵の兵士を殺してしまう。その直後敵軍(ジオン)にとらえられたバナージだったが、敵軍(ジオン)はバナージに対して協力者になってほしいとの申し入れをする。
バナージは人を殺してしまったショックを受け入れらない中、ひとまず捕虜として、ある兵士の家族と一緒に過ごす。
家族は捕虜の自分に対して優しく接してくれるも、バナージは家族に対して今のやりきれない思いを語る。

そもそも敵軍(ジオン)が戦争さえ起こさなければ…、正しい戦争なんてない。どんなに正しいことを言っても、たくさんの人を殺したのは変わらない。

そしてバナージは自分の状況を振り返る。

突然戦争に巻き込まれてまともじゃない状況だった。仕方がなかった、やらなければ殺されていた、殺そうと思ったわけじゃない。

「俺は人殺しじゃない」

バナージは抑えきれない感情を爆発させた。

その姿を見た女性マリーダはある場所に連れ出す。
そこで彼女はこう語る。

『お前の言うことは間違っていない』
『正しい戦争なんてない…』
『でも…正しさが人を救うとは限らない』

その後マリーダは敵軍(ジオン)が作られた経緯を話す。
敵軍(ジオン)はもともとそれぞれの事情で地球に住めなくなった人間が集まり、自分達の住む場所を必死になって、地球外である宇宙で創った開拓者達だった。しかし、地球にいる一部の権力者や富豪は彼らを格下扱いし、支配し虐げてきた。
虐げられてきた人間には光が必要だった。絶望に抗い、残酷で不自由な世界で生き続けるために。この世界を改善するための光が。そして虐げてきた人間に挑むために敵軍(ジオン)が生まれた。彼らにとって敵軍(ジオン)が光の存在でもあったのだった。

敵軍(ジオン)の事情を知ったバナージ。彼の中では、責めるだけの存在だった敵軍(ジオン)だが、実際に優しくしてくれた家族もいたことから、矛盾と葛藤に苦しんでいた。しかし彼ら(ジオン)の見方を少し考える。そんな彼に対してマリーダはこう続けた。

「堕としたパイロットの事は気にするな」
「戦場である以上、それは1個人ではなく、パイロットという戦闘単位になる。殺されても文句が言えないし、気に病む必要もない」「ただし、お前も自分がすでにその状況の一部となっていることは覚えておけ」
最後に、女の子(ミネバ)を救うために行動してくれたことへの感謝を伝えた。

自分だけの責任ではないことと、置かれている状況を再認識したバナージはショックは少し和らいだとともに、改めて今の状況を振り返るのだった。

では最初の話に戻る。

何かしらの問題行動を起こしている人に対して、そこに巻き込まれた人が存在する。今回で言えばバナージともいえる。
戦争(問題)を起こした存在(ジオン)と巻き込まれた存在(バナージ)である。

まず最初に考えるべきは

「正しさが人を救うとは限らない」である。

これはつまり正論であり、最初の話だと「やめさせる」にあたる。
やめたら誰も悲しまない、体は悪くならない、借金しなくていい、暴れなくていい。当然どれも間違っていないし、その通りになれば理想的だろう。しかし現実はその通りにならないことが多い。しかし間違っていないゆえに、理想に近づけようとさらにどうやったらやめられるかを強く行動するようになる。

特に問題だと思われる人の周りは、いわば自分が望まずにその状況に巻き込まれている。つまり今回のバナージのような状況に近い。
バナージの場合はさらに「人を殺してしまった」という望まなかった結果がついてきてしまった。
このようにただでさえ状況についていけない中で、ショックな出来事が起きてしまうと、起こしてしまった自分を責めるか、問題となっているものを責めるかになるし、それは無理もない話である。

残念ながら、責めるだけで問題となっていることが解決することはほとんどない。そんな時はどうすればいいのだろうか…

まず巻き込まれている人に対しては一つ考えられるのは、今回の話に出てきたように自分を状況を「広く大きく」見てみることである。
バナージのショックは、バナージ個人が、ある兵士個人を殺してしまったという捉え方である。これだと個人が個人に対しての行為になってしまい、登場人物も二人しかいないことから、責任が大きくなってしまう。しかし戦場という単位だと何百、何千という似たような状況が起こり、そのうちの一つと考えると、少しでも見方が変わる。
そしてもう一つ付け加えられているのは、「あなた(バナージ)自身が問題ではない」というところだ。戦争状態ではあるので、言い方の粗さはあるが、そのような状況なら、そもそも気に病む必要がないと言った所である。これはバナージ自身を問題とせずに、今の状況であれば起きてしまう現象であり、1個人が起こした問題ではないという捉え方を伝えている。

この巻き込まれている人の「広く大きく」は他にも、【問題を抱えているのは自分だけではない】という点も挙げられる。実際にDV被害、アルコールやギャンブルといった依存症に対しての集まりや家族会といった問題を抱えた人が集まると、「自分だけではなかった」ということから安心する人も多い。
もう一つ上げられた「あなた自身が問題ではない」の効果について、実は問題に巻き込まれた人はどこかで自分を責めている面もある。だからこそ責めるのではなく、そうなってしまうのは当然であることを受け止め方を伝えることで【本人と問題を切り離すこと】につながる。このようなやりとりを心理の用語では『ノーマライズ』と言う。つまりあなたは問題ではなく普通(ノーマル)だということである。

次は問題を起こした側を見てみる。今回の話では戦争を起こした敵軍(ジオン)で見てみると、バナージが言った通り、戦争を起こさなければこんなことにならなかった。敵軍(ジオン)側であるマリーダも正しい戦争なんてない。というバナージの言葉を真摯に受け止めている。しかし、バナージ自身は敵軍(ジオン)ができた理由、そこに至るまでの過程を知ったからこそ、敵軍(ジオン)であるマリーダの話を受け止めることが出来たともいえる。
この話で言えば、ならば敵軍(ジオン)はこのまま虐げられ続ければよかったのかと言われると、おそらく多くの人は倫理的にも違うと答えるであろう。だが戦争を起こしたという事実だけしか見えない状態では、本当の意味で問題を起こした側(ジオン)を理解することはできない。そして理解したからこそ、バナージは葛藤するも、今までと違う見え方、受け止め方をすることができたのだ。

実際に自分の相談でも、何かをやめたいという相談があった時に、やめ方だけを一緒に考えても、結局上手くいかないことが多い。その理由を考えてみると
・どこかでやめられない相手を問題視しているから
・そのために問題となっていることだけしか見えなくなっているから
このように挙げられる。しかし、先ほどの問題を起こした過程を知る努力をするだけでも、相手の見方が変わってくる。
もしかしたら過去に辛い出来事があり、どうしても忘れるために必要だった。何かを失ってしまい、その変わりがたまたまやめられないものだった。など、問題行動に至るまでの過程を知ったら。やめさせるというよりも、まずその人自身のこれまでのしんどさを聴くことが先になるだろう。
そんなことを聞いている余裕や猶予がないという周りの人もいるのも、十分考えられる。ならばその周りの人のしんどさも一緒にまず聞いていけるようになるのも大事である。これまでどのように耐えてきたなど、その人自身の強さを知ることもできるかもしれない。

色々と書いてきたが、大事なことは
「正しさが人を救うとは限らない」それは正論にあたり、時には返って相手が苦しむこともあるということを覚えておきたい。
だからこそ、正しさ(正論)で人を進めようとするのではなく、時にはその人自身の苦しみの過程を知ろうとする努力も必要なのだろう。そして、巻き込まれた人の苦しみや怒り、悲しみといった感情も受け止めながらも、ほんの少しの違った視点を時には伝えられればと思う。
難しい問題であり、まだまだ道半ばだが、今を精いっぱい、修正しながらでも前に進んでいきたい。

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